無痛分娩

当院の無痛分娩は硬膜外麻酔を使用しています。 今までに約2500例ぐらいの経験がありますが 現在まで1例も副作用が出たことがありません。昨年(令和2年1月から12月)は全分娩数217例、経腟無痛分娩104例、帝王切開18例(硬膜外麻酔を使用)でした。
当院では無痛分娩の麻酔開始より分娩まで助産師が片時も離れず付き添い、安全を守りながら行っています。自然分娩をご希望でも分娩が中々進行せず体力が消耗すると それから無痛分娩に切り替えられ元気にご出産される方も多く見受けられます。
経産婦の方でご希望の方は、分娩の日にちを決めて誘発分娩を行っている為、ほぼ100%ご希望通りに無痛分娩でお産をされています。
初産婦の方の多くは自然分娩を待って無痛分娩の処置を行っている為、分娩が重なったりお産が当直医の時はご希望に添えないこともあります。
手順
硬膜外腔(脊髄の外側)にある幅4mmの場所に細いチューブを挿入し、定期的に麻酔剤を注入して陣痛の痛みを取ります。
痛みの間隔はほとんどなくなりますが、子宮の収縮は残るため分娩は進行します。
子宮収縮が弱くなる場合は陣痛促進剤を使用します。
麻酔薬が脊髄腔の中に入ると血圧が下がり、呼吸が苦しくなることがありますが、そのようなことのないように必ず少量の麻酔剤をテストしてから始めますのでご安心ください。
※無痛分娩をご希望される方は初診時にお申し出ください。
【図】硬膜外鎮痛
当クリニックにおける硬膜外無痛分娩について
<入院前>
インフォームドコンセントの取得
- 前日入院(子宮口の拡張有)または当日入院(子宮口の拡張無)が決まったら、無痛分娩の説明書と誘発分娩の説明書を渡して、入院から分娩までの流れを話す
- 無痛分娩の同意書、誘発分娩の同意書を渡し、入院時に持参してもらう
- 時間外・深夜の陣痛発来に対しては硬膜外麻酔による和痛分娩も行える場合もある事を説明する
<前日入院、当日入院>の手順
無痛分娩を受ける方に<当日入院>
あなたは 月 日の分娩予定です
- 当日の朝食は摂らずにおいで下さい。水分またはゼリー類は摂っていただいても構いません。
- 当日の7時 30 分に電話をいただき、入院の確認をして下さい。 当院の態勢が可能であれば、8時15分までにおいでください。
- 玄関の閉まっている場合は、見舞客の入り口のインターホンを押してお入り下さい。内から解錠します。
- 入院後分娩室で点滴をして、背中に局所麻酔をしてから硬膜外麻酔のチューブを挿入します。 頸管の熟化の悪い方(硬い方)にはメトロ(小さな風船)を頸管内に入 れます。
- 陣痛促進剤を子宮の収縮と赤ちゃんの状態を見ながら(ガイドラインに順じて)使用します。 陣痛が強くなったところで、無痛分娩の麻酔薬を注入します
※他に陣痛の始まった妊婦さんがいる場合は、誘発分娩の方は延期になることもありますのでご了承下さい。
無痛分娩を受ける方に<前日入院>
あなたは 月 日の分娩予定です
- 頸管の成熱を計る(開きやすくする)ために前日の入院が必要です。
- 前日の12時に電話をいただき、入院の確認をして下さい。 当院の態勢が可能であれば、前日の16時に入院となります。
- 夕方に硬膜外麻酔のチューブを挿入し(麻酔はまだ使いません)、ラミナリア(海藻の1種)を頸管に入れ、翌朝までに頸管の熟化を計ります。
- 当日は分娩まで食事はできません。水分の補給は構いません。
- 日朝、分娩室で点滴をしてラミナリアを抜去、陣痛促進剤を注意しながら(ガイドラインに順じて)使用します。ラミナリアでも十分な熱化が計れない場合は、メトロ(小さな風船)を頸管内に入れます。
- 陣痛促進剤を子宮の収縮と赤ちゃんの状態をみながら増量していきます。 陣痛が強くなったところで、無痛分娩の麻酔薬を注入します。
※他に陣痛の始まった妊婦さんがいる場合は、誘発分娩の方は延期になることもありますのでご了承下さい。
<無痛分娩当日>
陣痛開始前*医療スタッフが片時も離れずに監視
- 絶食とするが飲水は可
- 18Gで血管確保
- 側臥位になり穿刺部を消毒、皮膚に局所麻酔をし、穿刺痛を十分に取り除く
- 硬膜外針を穿刺して硬膜外チューブを挿入、固定する
- 1%リドカイン(キシロカイン)をテストして、脊髄麻酔または血管に注入されていないかを確認
- セミファーラーの体位で血圧の変動に注意し、全脊麻でないことを確認
- 分娩監視装置を装着し、内診をして子宮口の開大・児頭の下降を見る
- 児頭の下降が十分でない場合は児頭の下方に臍帯の存在の無いのを確認して、ミニメトロを挿入する場合もある
- 自動血圧計、連続パルスオキシメーターを連続測定
異常がなくても15分後のバイタルサイン・知覚や運動機能の麻痺がないことを医師に報告する
【図】お産の痛みの伝わり方
陣痛開始後*医療スタッフが片時も離れずに監視
- 麻酔薬の注入(麻酔)は本人の希望により開始する
- 効果発現までの時間が短いキシロカインで開始
麻酔薬注入時は必ず血液の逆流の無いことを確認し注入 - 15分後に血圧、SaO₂、子宮収縮の状態を報告
その後は30分毎に報告 - 分娩の進行具合によりポプスカイン(進行が緩徐)、キシロカイン(進行が急激)を使い分けて使用
- 子宮収縮が10分間に5回以上にならないように収縮剤をコントロール
- 分娩の進行が悪い場合は経腹の超音波で児頭の回旋を診る
回旋の悪い場合は、児頭の回旋しやすい産婦の体位を工夫する - 児の状態が悪い時は無痛分娩、誘発分娩を中止することも
- 児の状態がさらに悪化し、急遂分娩を要がある場合は硬膜外麻酔に高濃度のキシロカインを注入し、帝王切開に即座に移行することもあり得る
- 子宮口が全開大し、麻酔の効果が薄い場合は1%キシロカインを追加し会陰裂創縫合まで無痛で行えるようにする
<分娩後>
【新生児】
- 新生児の観察、蘇生は新生児蘇生法(NCPR)のアルゴリズムに沿って行う
- 新生児右手のSaO₂が93%を超えれば児をクベースに移送
NCPRより厳しい基準を設けている - クベースでSaO₂を下肢にて計測、右手のSaO₂の差が3%以上あれば医師に報告(動脈管由来の先天性心疾患を念頭に)
- クベース内で新生児の計測をして、全身状態を観察する
- 新生児の体温低下に注意をしてコットの移送
【母体】
- 母体のバイタルサイン及び出血量を確認
- 子宮復古と子宮内の遺残を確認
- 頸管裂傷、膣壁裂傷の無いことを確認
- 縫合部の腫脹、膣壁血種の無いことを確認
- 最後に注入した麻酔薬がキシロカインの場合は産後2時間で歩行可能であるが、困難であれば4時間を目安にして歩行確認をする
- 硬膜外チューブを抜去し、帰室する
硬膜外無痛分娩看護マニュアル
≪硬膜外鎮痛開始時の確認事項≫
- 無痛分娩を開始することの同意書
- 硬膜外鎮痛開始後の状態変化に対応できるよう、原則分娩室で行う
- 末梢静脈路が確保され、輸液が開始されている
- 自動血圧計・パルスオキシメータが装着されている
- 開始前の母体血圧・脈拍数・Spo2・体温が測定されている
- 急変時に対応できるよう酸素吸入・AED・口腔内吸引装置が正しく作動するか、救急ボックスとアンビューも確認しておく
- エフェドリン希釈液・リトドリン希釈液がすぐに使用できるよう準備しておく
≪硬膜外鎮痛中のルーチン管理≫
- 医療スタッフがベッドサイドにいる
- 歩行はせずベッドで過ごす
- 絶食とし、飲水(飲むゼリー含む)可とする
- 自動血圧計・連続パルスオキシメータを装着し、連続的に脈拍数・Spo2を監視する
ⅰ | 血圧の測定間隔⇒鎮痛開始(テスト含む)直後~15分 連続測定 →異常がなくても、バイタルサインと知覚や運動機能の麻痺がないことを医師へ報告 15分~30分 5分間隔 30分~60分 15分間隔 |
---|---|
ⅱ | 特に鎮痛開始直後より15分は薬液が脊髄腔に入った場合も考え、血圧低下・徐脈・呼吸困難・ショック状態に注意する |
ⅲ | 薬液が正常に硬膜外腔に入っていても、開始から30分は仰臥位低血圧に注意する →血圧の下降が認められたら、体位変換(側臥位)後クールテストを行い、医師に報告。 必要なら輸液急速負荷を行う |
ⅳ | 局所麻酔中毒の初期症状(金属味・不穏・興奮)を認めたときには、直ちに麻酔薬の投与を中止し医師を呼ぶ 酸素投与しながら、患者の監視を続ける |
≪無痛分娩の実際≫
【妊娠中の看護】
妊婦の希望に合わせて意思決定が行えるよう支援する。必要に応じて助産師外来や医師からの説明をする。
入院時
- 母児の情報収集(既往歴・家族歴・服用薬・アレルギー等・妊娠経過)とリスクの評価を行う
- 説明と同意書の有無(誘発分娩の場合は、あらかじめ外来で書類を渡している)
【誘発無痛分娩当日】
準備
- 誘発無痛分娩開始前に、リトドリン希釈液・エフェドリン希釈液の準備確認
- 分娩室内の器機作動点検(分娩台・酸素ボンベ・酸素マスク・モニター類・ナースコール)
- 新生児蘇生物品の点検・作動点検
情報共有
分娩予定者の情報提供を外来と病棟で行う
分娩進行中の管理
- 分娩進行時は、原則常に母体生体情報モニター・CTGを装着し母児が健康であることを確認する
血圧(1時間毎)心拍数(2時間毎)Spo2(2時間毎)呼吸数(適宜)記録する - 異常出現時、医師へ報告する
- 無痛分娩開始前に、産婦の体温・血圧・心拍数・Spo2・呼吸数を確認する
- 無痛分娩開始前に、18Gで末梢静脈ルートを確認し、輸液を開始する
- 陣痛の痛みの程度を産婦に聞き、麻酔開始について産婦の希望を確認する→医師へ麻酔開始の依頼をする
無痛分娩経過中のケア
- 体温は2時間毎に測定し、自動血圧計・連続パルスオキシメータを装着し、連続的に脈拍数・Spo2を監視する
- 3時間毎(適宜)に導尿を行い異常出血や多量の羊水流出、過強陣痛を自覚出来ないことがあるため、助産師が兆候を把握する
- 分娩時の努責呼吸法の指導
- 児の回旋異常がある場合は、児頭が回旋しやすい産婦の体位を工夫する
- 産婦に分娩進行状況や実施しているケアを適宜説明しながら、産婦の傍で経過を観察し援助する
分娩時のケア
- 血圧計・心拍数・酸素飽和度モニターを装着し自動計測
- インファントウォーマーの確認(温度・聴診器・Spo2モニター等)
- 吸引分娩・鉗子分娩へ移行する可能性を踏まえての準備と分娩介助を行う
分娩後のケア
- 児の蘇生は新生児蘇生法(NCPR)アルゴリズムに沿って観察・ケアを実施
- 母体バイタルサインや出血量を確認
- 分娩時に多量出血でないこと、産褥復古状況が良好であること、凝固に異常がないことを確認の上帰室時に硬膜外カテーテルを抜去する
- 分娩後2時間で歩行困難であれば、4時間を目安に歩行確認していく
- 自然排尿の確認・排尿がない場合4時間を目安に排尿誘導